なんで今時、コレ?
という場面が多い和楽器の世界。
そこで『チタン製の駒』を作ってみた。
良くも悪くもガラパゴスな三味線
中国から沖縄へ沖縄の「三線」が「三味線」として
庶民に伝わってきたのは江戸時代のこと。
豊臣秀吉が「よど姫」の為に職人に三味線の制作を
命じたのがキッカケで一般庶民へ拡がってから
400年以上経っても材料や基本設計は当時のまま、
未だに「鼈甲」「象牙」「動物の皮」「木材」「金」
などを使いながら、工具が電動化したとはいえ、
最後の手仕上げもそのままです。
工作精度は今の方が精密だとは思いますけど、
今の時代、もっと良い素材とか形とか材料が
あるんじゃなかろうか・・・という単純な好奇心で
今回、「チタン製の三味線駒」を発注。
そもそも、三味線の「駒」って何?
馴染みのない方へ説明すると三味線の音は、
糸の振動を駒を通して胴の皮へ伝えて音量を増幅させます。
その過程の中で三味線の木材のクセや、胴の皮の種類や
張り具合、糸の素材と太さ、そして駒の素材、サイズ、
種類でその三味線奏者の音色が決まってくるんです。
ある意味、その楽器の持ち主次第で音色が変わるのが
三味線。天地人、三味一体となると音が出る楽器、
そんな、感じです。(どんな感じよ)
前後の装着位置でも音色は変わる
コレだけ三味線には音色の「不確定要素」が沢山あるので、
本体に大きな変更が無かったのかもしれませんね。
その駒にも演奏ジャンルごとに細かく違いがありますが、
自分のは津軽三味線なので、津軽三味線を基準に
話を進めていきます。
津軽三味線は一の糸を叩くとき「どってんさせる」と
言う言葉があるくらい大きな音量と迫力の演奏が魅力。
元々は民謡の伴奏楽器で伝統系の三味線とは違い、
旅芸人や「門付け」などで定着したジャンルなので、
故にパフォーマンス的な要素も沢山あります。
今風に言えば、
「ストリートカルチャー」がルーツなのか?!
なので使う「駒」は胴皮を叩きやすくするため高さも低め。
「素材が堅くパンチのある音が出る」「速弾きがしやすい」
「見た目」も大事、という要素もあったりします。
因みに他の三味線ジャンル、伝統芸能系の長唄などは、
津軽みたいに「速弾き」とか「バンバン叩く」演奏法ではなく、
おっとり、しっとり、糸を弾く演奏法なので、
駒の高さも高く、素材もどっしりした象牙製や鉛を
埋め込んで敢えて「響かない」様にしていたり。
舞台の伴奏で津軽三味線みたいな主張の強い音だと
色々と不都合なことが多いからなのかな・・しらんけど。
いずれにしても、小さい脇役的なパーツなんですが、
結構、演奏や音色に影響するので重要な役割をしています。
なんで、チタン製で作った?
答えから言えば「興味本位」です。
元も子もありませんが・・・。
たまたま、あるイベントでサンプルで置いてあったのを
借りて自分の太棹(津軽三味線)で演奏をしたところ、
自分では嫌いじゃない音色だったんですね。
しかも、壊れない。一生物として使える!
実は三味線の駒あるある・・なんですがメンテの時や
狭い楽屋でうっかり落としたりして踏んづけると
木っ端微塵になるんです・・・ホントに木っ端微塵。
1つ4〜5千円するので、それがお気に入りだと結構な痛手。
チタン製の駒はお気に入りので作れて、
しかも踏んでも壊れない駒!壊れるのは自分のアシ。
忍者の如く、足元に撒けば不審者も撃退できます。
と言うのは、置いておいてたまたま、それが
チタン製だった・・というハナシです。
鉄製でもなく、銅でもアルミでもなくチタン。
なんか、イマっぽいじゃないですか?ただそれだけです。
チタンとは?
元々は、イギリスの海岸から「未知の金属」が発見され、
その後、ドイツの学者が鉱石からチタン元素とし、
アメリカの学者が純度99.9%のチタンの抽出にも成功。
一般的に工業製品に使われる様になったのは、
1946年戦争終結後からなので比較的新しい材料の部類です。
津軽三味線に使ってみた結果・・・。
まず、参考までに自分の三味線の仕様から説明すると、
・1寸の太棹、金細、綾杉胴
・総重量、ジャスト3.0kg
・両面合皮(風音のアドバンス)
・糸は、1から浄瑠璃の中口、15-2、14-3(多分・・)
使ってみた答えを言えば、
結局は、アナタ次第・・・かな?
ぶっちゃけ「良い音って何?」が多い和楽器。
解釈の仕方で、良くも悪くもなるのが和楽器。
それだと「は?」と言われそうなので、
一応・・・続けます。
今回、作ったのは2種類。
肉抜きが多く華奢なデザインの『舟形』と、
定番の形の『平形』の駒。
《チタン舟形》
通常は竹で作られることがほとんど。
今回は「糸受け」をプラで。
犬皮で舟形駒は堅めの音だけど合皮にチタン駒だと
音の角が取れて本皮っぽい音色に。
サワリ(糸の共鳴音)も問題なし。
《チタン平形》
こちらも通常は竹製がほとんど。
今回「糸受け」を敢えて付けずにダイレクト載せ。
面積が舟形よりも増えるのでダイレクトの方が
振動が響くかな・・と言う予想だったけど結果、
逆だった。重さと接地面積の影響か、ボンつく。
イメージとしては教材用の津軽三味線の様な音質。
花梨棹に厚めの犬皮を張った三味線?
サワリ(糸の共鳴音)も弱め。
太棹の合皮仕様で検証した結果・・・
・通常の竹駒は外へ音が飛ぶ。
・チタン平形は胴の中へ音が飛ぶ。
・チタン舟形はその中間で音角が丸い。
数値で検証はしてないけど、明らかに違いを
感じ取ることができるのでその辺はお察しを。
と言う感じで「合皮」の場合だけど通常や舞台、
イベントなら遠くへ音が飛ぶ「竹駒」。
稽古や屋内では耳に優しい「チタン舟形」。
「チタン平形」は総合的には微妙でした。
データが乏しく、想像の域を出ないけど、
華奢なデザインの駒の方が
『合皮✖️チタン駒』は良さげ。
そこまでして、採用するかは別問題だけど、
マイクを通してステージパフォーマンスとか、
イベント用として使うのは頑丈だし、
ビジュアルとしてならアリかも?!
奇抜なデザインで作ったり・・。
まとめ
因みにこちらの『チタン製の駒』は、
通常の駒なら3つ、4つ買える位のコストも掛かるし、
諸事情もあり、一般販売はしていませんが、
(自分が製作してるわけじゃないので・・)
もし「どうしてもほしいっ!」という
奇特な方はご相談下さい。
値は張りますがその代わり、
一生モンとして使用ができます。
(あなたが一生使うかどうかはしらんけど)
伝統的な見方からすると、金属加工部品を三味線に
使うのは『異素材感』に抵抗があるかもしれません。
とはいえ、チタンも宇宙から誕生した鉱物。
突き詰めれば、自然由来(宇宙由来?)には変わりありません。
特に、津軽三味線は、楽曲や奏法も含め、
時代ごとに変革、進化していて、江戸時代から細棹しか
なかったのに独自にどんどん棹や糸を太くしながら、
民謡の伴奏楽器から独奏楽器へと昇華させ、
世界大会の開催、エレキ三味線の登場や、
また動物愛護や天然素材の枯渇問題から
合皮使用や研究、開発など・・
糸巻きやバチの素材に「アクリル」を好んで
使い始めたのも津軽三味線界隈が最初だと思います。
まだまだ、課題はありますが、
チタン製の三味線駒は話のネタやあなたの
「アイデンティティ」としても良いのではないでしょうか。
P.S.
しかし今回の「平形駒」・・・
イマイチ微妙なものの、安くはないので、
来客用「箸置き」に使うか「キーホルダー」にするか
「オブジェ」として使うかどうしようかと思案するなか、
何気に、毎日のルーティンで使っている
『サイレント三味線』に装着してみたら、
「あれ?コレ、いいんじゃない!」となった。
純正は四角い木材を駒として使用しています。
機能的な問題点はないのですが唯一の問題点は
「音締め」の時、指の位置のイメトレが出来なかったこと。
サイレント三味線に通常の「竹駒」を使うと駒自体が響く分、
若干、音量が出る様になっちゃうんですが、
コレなら普段使いと同じ形とサイズの駒で消音もしている。
部屋で演奏しながら「ねじめ」練習が出来るのは嬉しい誤算。
くれぐれも、踏んづけない様にしなきゃ・・・。
めでたし、めでたし。
今日も良い週末を!
カテゴリ:津軽三味線(仕事率50%)